2021 年 82 巻 12 号 p. 2185-2193
症例は78歳の男性で,労作時呼吸困難を主訴に当院を受診した.上部消化管内視鏡検査では胃体上・中・下部にそれぞれ不整な病変を認めた.下部消化管内視鏡検査では直腸に潰瘍限局型腫瘍を認めた.同時性3多発胃癌cT2N0M0,cStage I,大腸癌cT2N0M0,cStage Iと診断し開腹胃全摘,直腸前方切除を行った.胃全摘標本の肉眼所見では,(a)胃上部に長径35mmの2型腫瘍,(b)胃中部に長径30mmの1型腫瘍,(c)胃下部に長径5mmの0-IIc型腫瘍を認めた.病理組織検査ではこの3病変はそれぞれ,(a)mixed adenoneuroendocrine carcinoma (MANEC)(低分化腺癌と神経内分泌癌),pT2,(b)高分化管状腺癌,pT1a,(c)中分化管状腺癌,pT1aと診断され,同時性3多発胃癌と診断した.MANECは稀な悪性腫瘍であるが,その組織発生には諸説がある.本症例では多発胃腺癌の一つの中にMANECがみられたこと,腺癌の組織に囲まれるようにNECが存在したことから,腺癌が内分泌成分に転化したと考えられる.また,直腸癌を併存したことからミスマッチ修復遺伝子の異常を背景とした可能性がある.