2016 年 57 巻 2 号 p. 143-154
本研究では, アメリカのNature Studyがわが国における小学校低学年の理科に与えた影響を大正期の成城小学校を事例として明らかにすることを目的とした。まず, 成城小学校において低学年の理科の実践的研究に主体的に取り組んでいた人物として, 澤柳政太郎, 和田八重造, 諸見里朝賢, 平田巧に着目し, 彼らに共通する低学年の理科の目的論や方法論, 彼らが行った実践をNature Studyの原典と照らし合わせながら分析した。この結果から, Nature Studyが成城小学校における低学年の理科の理論と実践に与えた影響について考察した。その結果, 成城小学校における低学年の理科の目的論や方法論, 実践には, Nature Studyと共通する部分が多く, Nature Studyが取り入れられていたことがわかった。具体的には, 目的論における生活の進歩, 改善や, 観察力, 想像力, 思考力などの養成を重視する考え方, 方法論における自然の事物現象に直接触れることや, 自然の事物現象の観察・実験をすること, その結果を記録, 考察すること, 児童の要求や興味に応じて学習を進めることを重視する考え方, などが共通していた。成城小学校の教育論とNature Studyの考え方は適合するものであり, 低学年の理科を行うための理論的根拠として, また実践する際の参考として, Nature Studyが取り入れられた。成城小学校の教師らは, Nature Studyの背景も含めた理論と実践に深く共感し, それらに学びながら, 低学年の理科を展開していったのである。