感染症学雑誌
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原著
アーテメター・ルメファントリン合剤の日本人における使用経験
忽那 賢志小林 泰一郎加藤 康幸藤谷 好弘馬渡 桃子氏家 無限竹下 望早川 佳代子金川 修造水野 泰孝狩野 繁之大曲 貴夫
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2014 年 88 巻 6 号 p. 833-839

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抄録

近年,合併症のない熱帯熱マラリアに対してはアーテミシニン誘導体と他剤を組み合わせた併用療法が第一選択となっている.本邦では熱帯病治療薬研究班が保管・供給しており薬剤使用機関にて使用可能である. 今回我々は2005 年10 月1 日から2013 年3 月31 日までに国立国際医療研究センターを受診しマラリアと診断され,治療薬としてアーテメター・ルメファントリン合剤(以下AL 合剤とする)を用いた日本人症例 19 例(熱帯熱マラリア18 例,三日熱マラリア1 例)について診療録を用いて後方視的検討を行った.日本人症例19 例のうちAL 合剤のみで治療を行った熱帯熱マラリア症例は10 例あり,原虫寄生率は0.02~4.4%(中央値0.28%),寄生原虫数は22~225,720μL(中央値12,440μL)に分布した.発熱消失時間は14~66 時間(中央値25.0 時間),原虫消失時間は16~62 時間(中央値36.0 時間)であった.原虫消失時間と初診時の原虫寄生率において正の相関が得られた.再燃群(n=2)では非再燃群(n=8)と比較して原虫寄生率が高く(再燃群4.05%vs 非再燃群0.24%;p=0.044),原虫消失時間(再燃群55.5時間vs非再燃群31.5 時間;p=0.044)が長かった. 本研究では19 例中3 例とこれまでに報告されている再燃率よりも高かったが,これは嘔吐・下痢などの消化器症状が強く吸収が不十分であったこと,同時に摂取すべき脂質量が不十分であったこと,原虫寄生率が他の非再燃群と比較して高い傾向にあったことなどが考えられた.これらの症例ではグルコン酸キニーネ注を選択することによって再燃は防げたかもしれない.その一方で,重症マラリアの定義を満たす症例であっても経口治療で治癒しうる症例も少なからず存在しており,どのような症例で経口治療が可能であるかは今後さらなる検討を要する.

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© 2014 一般社団法人 日本感染症学会
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