2010 年 63 巻 5 号 p. 276-280
症例は40歳女性.腹膜播種をともなう卵巣癌の診断で当院紹介となった.精査でS状結腸に全周性の2型病変を認め,大腸原発か卵巣原発か議論となった.症状緩和と腸閉塞の回避目的に外科切除を施行した.S状結腸の腫瘍は腸間膜に穿破し,腹膜播種をきたしていた.左卵巣は径20cmと腫大し,術中迅速病理検査で大腸粘液癌の卵巣転移の診断であった.形態的に正常であった右卵巣にも微小転移を認めた.大腸原発粘液癌は比較的まれで,その卵巣転移はさらにまれである.大腸癌の卵巣転移の鑑別には一般にサイトケラチン7と20の免疫染色が有用とされるが,自験例においては大腸病変で腺腫成分の混在や正常粘膜との移行像を認めたのに対し,卵巣では単一な癌成分のみであった点もその鑑別に有用であった.